参考として具体的な臨床開発の転職についてみてみましょう。
以下はAさん(現在30代前半、内資系製薬メーカー Project Leader)の事例です。

(以下、Aさん談)
私は関西の某国立大学の薬学部を卒業後、米国に本社を構える外資系製薬メーカーのMRとしてキャリアをスタートさせました。

MR時代は脂質異常症、高血圧症など生活習慣病薬を中心に、人口100万を超える関東の大都市圏で基幹病院を10件ほど担当していました。
また並行して小児専門病院で実施していた小児の希少疾患のPMS(Post Marketing Study:市販後調査)もサポートしていました。

MRからの転職を考え出したのは、MRとしてキャリアを3年ほど積んだ時でした。
既存の薬で市場を開拓していくことは製薬メーカーの経営上は大変重要なことですが、すでに確立した薬剤のプロファイルでの差別化には限界があり、日々の業務がマンネリ化し、物足りなさを感じるようになったのです。

大学では、「Drug Delivery System(DDS):薬物が体内で分布する課程をコントロールすることで標的となる薬物が効果的に目標の組織に伝達されるシステム」を研究していましたから、もともと薬剤の開発に関する興味はありました。

また希少疾患の市販後調査業務で後の臨床開発モニター(CRA)業務の基礎となるような、施設との契約、症例報告書の回収、医師への問い合わせなどを経験していたため、自然と臨床開発モニター(CRA)への関心へとつながったのです。

早速、人材紹介会社に登録して、転職先を探すことに抵抗はありませんでした。
その際に紹介されたのが大手内資系のCROで、他にも中堅CRO 2社を含めた計3社を紹介され、最終的に応募したのは大手内資系CROでした。

当時(今から約10年前)のCROは製薬業界出身者のいわゆる第二新卒者を臨床開発モニター(CRA)として積極的に採用しており、20代半ばの年齢でMRとしての経験を十分にアピールできれば未経験者でも比較的採用は簡単でした。
書類審査通過後の面接は合計2回で、一度目は事業所のマネージャーが対応し、2度目は社長面接でした。
無事に大手内資系CROでCRAとしてのキャリアをスタートさせ、糖尿病、乳がんのプロジェクトを担当しました。
糖尿病は大手内資系メーカーのプロジェクトとして3年、乳がんは外資系メーカーのプロジェクトとして2年、合計5年間をCROのCRAとして過ごしました。
CROでのCRA業務は、MRとしての経験も十分に活かせて、賞与、出張手当、時間外手当など待遇も充実していました。

糖尿病のプロジェクトでは治験実施計画書(プロトコル)の検討段階から関わり、施設の立ち上げ、症例登録、データクリーニング、クロージングと臨床開発モニター(CRA)の業務を一通り経験できたことが、後の転職の大きな財産となりました。
生活習慣病ですから、多くの症例が同時期に登録され、複数の仕事を効率良くこなすコツもこのときに身に付けたと言えます。

また乳がんの試験では、糖尿病などの生活習慣病と違って一例あたりの有害事象の発生数も格段に多く、RECISTと呼ばれる固形がんの判定ガイドラインや、CTCAEという有害事象の基準に基づいてモニタリングを実施することで、CRAのスキルを上げることができたと思います。

CROでサブリーダーとしてCRA業務を続けていて、ふと、自分の臨床開発の業務範囲を広げてみたくなりました。
製薬メーカーであれば、試験計画の検討段階から業務を実施できますし、試験全体の進捗管理も自ら主体的に工夫して実施することが可能です。

キャリアアップのために、製薬メーカーへの転職を決意したのです。
ただしCROのCRAからの転職は、前回の転職と比較するとそれほど容易ではありませんでした。
人材紹介会社を通じて外資系メーカー1社、内資系メーカー1社を含めて合計2社に応募しました。

外資系メーカーでは英文での職務経歴書の提出を求められました。
当時既にTOEICの点数は750点を超えてはいましたが、やはり外資系メーカーで求められる高い英語力を実感したのを覚えています。
某外資系メーカーは残念ながら一次面接で不採用となり、続いて大手の内資系メーカーです。

実はこの内資系メーカーはCRO時代に糖尿病の業務を委託していたクライアントです。
部長クラスが勢揃いした一次面接は特に問題なくクリアし、迎えた本部長面接も見事、突破しました。
勝因は、CROのCRAとしてこのメーカーの業務を受託していて、業務プロセスをよく理解できていたこと、外資系よりも内資系として英語力のポテンシャルがあると判断してもらえたこと、さらに今後このメーカーで力を入れようとしていた癌試験の経験があったことだと考えられます。

大手内資系メーカー入社後は、CRAリーダーとして様々なプロジェクトを担当し、現在はPLとして試験計画の検討や、海外出張などをこなしています。
(Aさん談、終了)

さて、みなさん、上記のAさんの事例で具体的な転職のイメージができましたでしょうか。
MRからCRAへの転職、CROのメーカーへのキャリアアップを考えている方は是非、参考にしてみてください。

特にMRからCRAへの転職を検討する際はキャリアビジョンを定める必要があると思います。

MRからCRAに転職する場合一時的に年収が下がる可能性があり、転職活動をストップする人も多いようですが、製薬メーカーが全くの未経験者を人事異動ではなく外部からCRAとして採用することは皆無ですから、いくらMRとして経験があってもCRA未経験者を採用するCROでの年収はMR時代よりも下がるのは当然です。
ただ、私は年収の一時的な減少をデメリットと感じるのなら、転職は辞めた方がいいと思います。

MRという職種は、将来、需要が下がることはあっても上がることはないと思います。
一部、極めて領域専門性の高いMRの需要はあると思いますが、それはもうMSL(Medical Science Liaison)との区別がつかないレベルかと考えます。
よって、将来的にはMRは大きなリストラの波にさらされることになるかと思います。
もちろん、MRからmarketingやMSLとして専門性を高めるという手段はありますが、臨床開発業務と比較して非常にパイが限られています。

そういった意味でも、まずご自身が何をしたいのか?を明確にした上でCRAを選ぶのであれば、現在と比較するのではなく、今の仕事を続けた10年後と、転職した10年後を比較し、転職活動に臨むことがよいかと思います。