インタビュアー:今回は「がん治療」がテーマになりますが、昨今の抗がん剤の進歩は目覚ましいように思います。

川崎さん:抗がん剤や分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害剤など医薬品の種類だけでなく、治療法自体が進歩して、保険適用、保険適用外問わず、治療の選択肢が増えています。治療成績も上がってきており、医療者側から見て、患者さんに治療を受けてもらいやすい環境になってきていると思われるかもしれません。しかし実際には医療者の意に反して、治療を望まれない方もいらっしゃいます。

インタビュアー:医者が言ったことがそのまま聞くのではなく、患者さんも意見を言う時代になってきているということですね。具体的にはどういったケースがあるのでしょうか?

川崎さん:60歳代の悪性リンパ腫の男性で、数年間、通院での抗がん剤治療を受けられていた方がいました。「がんと共存」という言葉通り、体にがんを持ったままで、治療を受けながら仕事もして、普通に生活されていました。しかし、徐々に足の付け根にあるリンパ腫が肥大してきて、痛みと共に歩行にも支障が出てきました。そこで主治医は、入院して強い抗がん剤治療を受けるように勧めましたが、患者さんは拒否しました。その段階で、その病院のがん相談支援センターの看護師さんから依頼を受けました。

インタビュアー:どういった背景だったのですか?

川崎さん:お話を聞いてみると、その方は一人で飲食店を経営されていて、入院するとお店を休業しなければいけなくなるから、入院を拒否していました。休業すれば、その分収入がなくなって生活できなくなるだけではなく、借金の担保になっているお店も手放すことに繋がる不安がありました。男性にとっては、自分がお店に立つことが、自分の命と一緒なのです。入院して治療を受けることが、生命を守るための医学的に最善の治療だとしても、男性ががんと共存して自分の暮らしを守っていく(=生きていく)ことがどういうことなのかを考えれば、それが最善の選択肢とは言えないわけです。

インタビュアー:最終的にどういった治療を行うことになったのですか?

男性の希望は通院で治療を受けつつ、痛みを取りたいということでした。そこで、がん看護専門看護師の方と私が面談に入り、男性の気持ちや経済面、仕事面の事情をお聞きした上で、改めて主治医と治療方針の話し合いをしてもらいました。

そこで初めて、そこまでお金の問題が深刻だったのかということがわかり、結局、通院でできる他の治療に変更になり、男性は今もお店に立っておられるようです。私も一度、その方のお店に行ってみたことがあるのですが、とても生き生きと仕事をされていました。自分らしく生きておられる。たとえ治らないとしても、これがこの人にとって最適な暮らしなのだと実感しました。

このように、患者さんは暮らしやQOLを大切に考えた時に、生存率や治療を考えないことを選択することもあります。医療者側の思うような治療を望まないケースもあるし、医療者が思っている以上に切実なお金の問題を抱えていらっしゃる方も少なくありません。

Part① がんライフアドバイザーとは?

Part③ 癌治療についてと、実際に処方に至るまで(後編)